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コラム「デザイナーの主張」

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ゲーム業界で働くUIUXデザイナーが生きる道

ゲーム業界で働く同業の友人から「これからどうしていけばいいか?どんなキャリアを積んでいけばいいのかわからない」という話を聞くことが多くなってきました。
――というのも、ゲーム業界におけるデザイナーの役割というのが非常に幅広く、組織によって考え方が違うためキャリア形成が他の職種に比べて困難な現実があります。

「デザイナーの仕事は何なのか?」ということが、業界全体で正しく認識されておらず、現場で働くデザイナーのみならず、管理するマネージャーも他の職域のスタッフも、全員の認識が少しずつズレているため「我々は何者か?どこへ行くのか?」状態に陥っています。

今回は”ゲーム業界におけるデザイナーの役割”を考えてみようと思います。

  1. デザイナーの仕事とは?
  2. デザイナーが出来ること、出来ないこと
  3. デザイナーがやるべきこと
  4. ゲーム業界で働くUIUXデザイナーが生きる道

デザイナーの仕事とは?

UIUXデザイナーの仕事はなにか?
当サイトで連載中のエッセイ漫画「くたばれ!SG業界 不憫なUIUXデザイナー」の番外編のなかで以前ご紹介しましたが、SG業界におけるUIUXデザイナーの役割は他の職域に比べて幅広いことがお分かりいただけると思います。 「UIUXデザイナーってなに?」

  • ●ゲーム画面のUIデザイン【グラフィックデザイン】
  • ●UIパーツやアイコン、バナー等のグラフィック制作【グラフィックデザイン】
  • ●ゲーム画面のUX設計【UIUXデザイン】
  • ●ゲームのコンセプトやデザインにおけるアートディレクション【アートディレクター】
  • ●UIインタラクションの制作~実装【アニメーター】
  • ●unity等のゲーム開発エンジンを使用した実装作業【フロントエンド・テクニカルアーティスト】

具体的な仕事内容をまとめると以上の通りなのですが、これらの作業は全てデザインとは違う”別々の能力”が要求されます。
どういうことかというと…

グラフィックデザイナーの仕事

ゲームの画面デザインやバナーなどグラフィックの制作は”見た目を整える作業”なので、ご想像の通りデザイナー【グラフィックデザイン】の仕事です。これは解り易いです。

UIUXデザイナーの仕事

UIを設計【UIUXデザイン】する作業は見た目を整えるのと同時に”ユーザーにとっての使いやすさ、解り易さ、情報を伝える技術”というのが必要になってきます。
言い換えれば「行動学」「心理学」「情報設計」等、デザイン能力とは別の能力であり、グラフィックデザインとは全く異なります。 designer 別の職業に例えるとUIUXデザイナーは「建築家」で、グラフィックデザイナーは「大工」といった感じ。

アートディレクターの仕事

アートディレクションはその名の通り、ゲームやサービス全般にかかわる世界観やデザインコンセプトを司る【ディレクター】なので、アーティスト(イラスト、グラフィック)としての資質が必要不可欠です。
加えてリーダーポジションのため、ディレクション能力・管理能力が要求されます。 artist

アニメーションはセンスが必要

最近はWEBでもアニメや動画を用いた面白いサイトが増えていますが、ゲームの場合は画面全体が常にどこかしら動いています。
ユーザー操作による画面変化や待機モーションの他、遷移時の切り替わりアニメ、ローディング画面などなど、ゲームのUIをデザインするにはインタラクションアニメは避けて通れません。 jiraiya しかしモーションアニメのプロが存在する以上、”動きのデザイン”も相応のセンスが必要な分野です。
アニメのベースになる画面をデザインするのと、それにアニメをつける作業は当然別の能力です。

buttonanim
単純な拡縮アニメに一瞬のディレイや逆再生を挟むだけでもクオリティが全く変わります。

リッチな表現が求められるゲームではアニメーションのクオリティがサービスのクオリティを支えている面も高いです。
(UIデザインがアレでもアニメのクオリティで評価されるサービスが結構あります)
あくまで静止画のプロであるデザイナーにとってアニメーションはハードルが高い作業だと言えるでしょう。

最大の問題 Unity等における実装作業

これはハッキリ言ってデザイン能力とは全く関係ありません。
WEBの世界でいうフロントエンドやコーダーに等しい作業なので、エンジニアリングの知識が必要になってきます。
ただ、unityはエンジニアリング知識が無くてもある程度は使えるように作られたアプリケーションなので、非エンジニアのデザイナーでもインターフェイスの使い方さえマスターすれば、デザインをゲーム画面上に再現するというところまでは出来ます。
そのため、デザイナーがデザインした画面をデザイナー自身が実装するというのはある意味理にかなっているのですが、それにはもっと大きな問題が付き纏います。 「unity組み込みはデザイナーの仕事なのか?」

テクニカルアーティストという新ジャンル

昨今【テクニカルアーティスト】という、エンジニアとデザイナー、プランナー等の間を橋渡しする中間業務を担う専門家の存在がクローズアップされています。
TAに関しても組織によって考え方が異なるので、具体的にどんな仕事か?を定義するのが難しい職種ですが、大雑把に言うと
「デザイナーが手に負えないエンジニアリングに深く関わる部分、エンジニアには手に負えないデザインに深く関わる部分」の作業が担当領域。
そのため、デザインとエンジニアリング双方の知識が必要になってくるのですが、デザイナー出身か、エンジニア出身かで微妙に知識に偏りが生まれるので、双方の知識をバランスよく有するなんて万能な人はかなり限られてくると思います。

また、現状では「unityを扱えるデザイナー」や「ツール開発に長けたエンジニア」をTAと呼んでいる組織も存在するので、考え方が組織によって違うという問題も抱えています。

たとえば、画像を綺麗に出力させるためには、圧縮方法の検証と最低限のグラフィックに対する感性が必要です。
マテリアル等のシェーダー類はスクリプトがかけないと作れないので、デザイナーにはできませんが、見た目にかかわる部分なのでエンジニアにも難しい作業です。
制作を効率化させるためのツールの制作や、リソースの管理、データの構造設計や軽量化などなど、双方の専門知識を有するTAだからこそできるデリケートな領域です。
また、”通訳”としてTAが立つことで、各職域間のコミニュケーションコストが下がり、プロジェクトが円滑に進むようになります。 TA


こうして項目別に分けてみると解り易いと思いますが、基本的にはこれらの作業全般をSG業界のデザイナーは全てやっています。
そして、現場のデザイナー自身も”やらなければいけない”と思い込んでいます。 region
しかし、先に述べた通りこれらの作業は全て別々の能力が必要なので、
ハッキリ言ってそんなスーパーマン日本には多分一人もいません。

常識的に考えて【バナー作って、画面設計して、UIデザインして、実装して、アニメーション付けて……】なんて、ただでさえ時間的な余裕の少ないゲーム開発において、デザイナーが全部やるなんてほぼ不可能です。
今まで経験してきたどのプロジェクトでも共通してデザイナーは自転車操業状態でした。


設計技師は設計するまでがお仕事で、自分で木を切って釘を打って…… 家を建てたりしませんよね(そういう人もいるでしょうけど)
「全部やれ」というのは「自分で設計開発したレーシングカーでレースに出て初めてF1ドライバー」だと言っているに等しいです。

デザイナーが出来ること、出来ないこと

デザイナーの専門は当然ながら”デザイン”です。
しかしゲーム業界で求められるデザイナーの資質には、先に解説した通り「情報設計」や「エンジニアリング」の知識が含まれます。
しかしすべてのデザイナーにそれらを求めても専門性が違うので、そもそも無理です。

UIデザインとUXデザインは別物

グラフィックデザインはイラストやアートのように見た目の美しさを追求するのがメインになるのに対し、UXデザインは表示される情報を的確にユーザーに伝えるための設計作業がメインになってきます。

繰り返しになりますが、この二つは明確に違う技術が必要な分野です。
しかし、デザインを突き詰める行為はそのまま情報設計を突き詰めていく行為と等しいため、両者は密接な関係にあるのも事実です。 UIUX

画面(紙面)のどこに視線を誘導するか、情報を伝えるための的確なレイアウト、トーンやカラーバランスを調整したりと
読み手(ユーザー)に的確に情報を伝えるための技術やテクニックを駆使して画面を作る行為そのものが情報設計(UIUX)と同じなので、UIデザインを突き詰めれば最終的にUXデザインに行きつきます。 紙面デザイン

見た目を綺麗に整える技術に長けた人、画面の構造を設計する能力に長けた人、各々の異なる得意分野を両者兼ね備えているデザイナーはむしろ少数派です。


UIUXデザイナーは特殊技能を有した希少種なんです。

デザイナーとアーティストは別の生き物

ソーシャルゲームの開発会社は元々WEBサービスの開発を行っていた会社が多く、ブラウザゲーム初期の開発体制では、デザイナーがアーティストを兼任していました。
しかしゲーム開発が本格化し、よりクオリティの高いゲーム開発が行えるようになり、状況は一変しました。
沢山のコンソール開発経験者が参入し、デザイナーには画面のデザインクオリティに加えて、絵的な資質が求められるようになります。

本来、WEBの開発技術しか有していないデザイナーはアーティストとしての資質を持ち合わせていません。多くのデザイナーは絵が描けません。

UIパーツ一つのクオリティに対して並々ならない精度を求めるのがグラフィッカーです。
しかし設計や全体のバランスを重視するデザイナーは彼らの要求には応えられません。
絵が描けない人に絵的なクオリティを求めても、能力が違うので応えられません。 not design

ゲーム業界で”デザイナー”に求められる能力は”アーティスト”としての資質(イラスト、グラフィック)である場合が多く、デザイナー=アーティストと多くの人が勘違いしています。 「ませるな危険 デザイナー≠アーティスト」

しかし、画面のほとんどがUIで構成されるスマホゲームの場合はUIデザインがゲームのアート面に影響を与える場合も少なからずあり、デザイナーのセンスがコンセプトに大きく貢献することがあります。 artxdesign

デザイナーがアート面のクオリティまで担保するには3D、アニメーション、エフェクトなどデザイン以外のクオリティを見極めるセンスが要求されることになります。
ゲーム業界で働くデザイナーにはアーティストとしての資質が必要不可欠です。

デザイナーにUnity(実装)をやらせるのは間違い

ブラウザゲームの時代は「コーダー」や「フロントエンジニア」「フラッシャー」という”実装担当者”が存在していました。
彼らはHTML・CSSに加えjsやphpといったプログラミング言語を扱うこともできるので、エンジニアの領域に近く、デザイナーとは明確に差別化されていました。
しかしアプリ開発になってからはunity等のゲーム開発エンジンが主流になり、非エンジニアでも組み込みまでが可能になりました。
そのため以前存在していた”実装担当”が現場から居なくなり、デザイナーの仕事に組み込まれ、その延長線上にあるTA関連の業務もデザイナーに丸投げされてしまった
というのが現在のSG業界をとりまく現実です。

個人的にはデザインをunity上に組み直すだけの作業ならあまり意味がないと思っています。
ヒエラルキー構造や画像圧縮技術、シェーダーの書き方など、エンジニアリングの深い部分まで入り込まないと知識として非常に中途半端です。
そしてそこまで来るとデザイナーというよりエンジニアなので、デザイナーに任せるには荷が重い分野です。あと単純にツマんない。

元は細分化されていた業務がデザイナーの作業領域に組み込まれてしまったため、単純にデザイナーの作業量が増えました。
また、エンジニアリングの知識が無ければなにかと不都合が多い作業でもあるので、非エンジニアのデザイナーにはunity(実装)作業は荷が重いです。


デザインの専門家であるデザイナーにデザイン以外の業務を担当させるというのは本人の”やる気”を削ぐ要因にもなり得ますし、効率も悪いと個人的には感じます。

組織の大きさによっては人員確保の問題から、デザイナーがやらざるを得ない状況が生まれるかもしれませんが、「人がいないからデザイナーがやればいいじゃん」というのも乱暴な理屈です。

デザイナーに出来ることと出来ないことはなにか?

結局のところ個体差なので明確に定義するのは難しいですが、ただ一つ言えることはデザイナーである以上、グラフィックデザインは出来て当たり前です。

そしてその中から、設計技術、UXの知識を有する一部のデザイナーがUIUXデザインを担当し、unityのインターフェイスを扱える人は実装も担当することになるでしょう。

●WEBを経験している人の中には構築までできる人がいます。jsやphpといったプログラミングが出来るかもしれません。そういう人にはデザイン+エンジニアのポジションを任せられる可能性があります。【テクニカルアーティスト】
●サイトやサービスの画面デザインにディレクションから関わっている人ならUIUXデザインをお任せできるでしょう。【UIUXデザイナー】
●イラストや3Dグラフィック経験者はアート面でのディレクションに長けている可能性もあります。【アートディレクター】

どんな仕事を経験してきたか、何が得意かによって任せられる領域が変わってくるわけです。

デザイナーがやるべきこと

現在の状況でデザイナーが生き残っていくためには「すべてをなんとなく出来るようにしておく」というのが賢い生き方なのかもしれませんが、逆を言えば”コレ”といった得意分野が無く、代わりはいくらでもいる状況に陥る危険性があります。

デザイナー自身は何がしたいかをきちんと持ち、その分野を伸ばしていくことが重要と私自身は考えます。

ただ、現在のSG業界では特定の分野を伸ばしても、その技術を生かせないという苦しい現実もあります。

ゲームのUX設計を実質的に取り仕切っているのはプランナーなので、UI設計技術を伸ばしても宝の持ち腐れになる可能性が高く、
エンジニアリングの知識を伸ばしても、本職のエンジニアがいる以上サポート的な役割しか与えられません。
グラフィックデザイン技術を伸ばすにも、アート面での裁量権はデザイナーよりもアーティストの方が大きいので、よほど優れたセンスの持ち主でなければ生き残っていくのは難しいでしょう。
ゲーム業界にいるより、紙やWEBの方が技術力は育ちます。

――と考えると、やっぱり総合的に全部できるのが生き残っていくには便利なのかもしれませんが、どれも中途半端な”帯に短し襷に長し”的な技術力では将来的に行き詰る可能性も高いですよね。。。。
さて、どうしたものか……

ゲーム業界で働くUIUXデザイナーが生きる道

現状ではデザイナーの担当する領域が広すぎるため、専門性を伸ばすことが難しい現実があり
「すべての職能をまんべんなく学習し、総合的にマネジメントする管理職」を目指す以外の道が無いという状況に陥っているのが現在SG業界で働くデザイナーを取り巻く現実です。

  • ●グラフィックを突き詰めてデザインのスペシャリストになる
  • ●サービスの設計能力を突き詰めてUIUXデザインのプロになる
  • ●エンジニアリングの知識を磨いてテクニカルアーティストの道を究める
  • ●プロジェクトをマネジメントする管理職へステップアップする

少なくともこの4つのルートがデザイナーにはあると思うのですが、結局のところ組織がどう考えるか?が障壁になってくるので
専門領域ごとに担当を細分化、もしくは本人が希望するルートを選択可能にするなど、スペシャリストを育てる環境を作らない限り「我々は何者か?我々はどこに行くのか?」という状況は変わりません。
今後デザイナーに対する理解が深まり、働きやすい環境づくりが進んでくれることを期待します。

Paul Gauguin - D'ou venons-nous.jpg
フランスのポスト印象派の画家 ポール・ゴーギャン作
「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」

Museum of Fine Arts Boston

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