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コラム「デザイナーの主張」
混ぜるな危険 デザイナー≠アーティスト
現在業界で大手と言われるSG開発会社の多くは、もともとウェブサービスやブラウザゲームからスタートした企業が多いため、WEB開発におけるノウハウや制作体制が引き継がれてきていました。
近年はコンソール開発出身のクリエイターも多くなってきたため、SG特有の開発体制と、本格的なゲーム開発文化が融合した独特の開発スタイルに進化してきています。
しかし長年SG開発に携わり、いくつかのコンソールゲーム開発も経験した自分にとっては、この両者は仕事の進め方も考え方も根本的に違うと痛感する場面が多く、特にデザイナーに対する捉え方がWEBとゲームとでは雲泥の差があります。
今回はSG開発現場におけるデザイナーの役割を考えたいと思います。
デザイナーとアーティストは別の生き物
ゲーム開発にはたくさんのクリエイターが集まってきます。
コンソール出身の開発メンバーに話を聞くと、そもそもデザイナーの定義が他業界の考えるデザイナーとゲーム業界の考えるデザイナーでは違うようだということに気づきました。
アーティスト=デザイナーだと思われている
多くのサービスにおいて”デザイナー”というと、グラフィックデザイナーやWEBデザイナー、UIデザイナーなど”設計者”を指す場合が多いと思いますが、
ゲーム開発現場におけるデザイナーは、”アーティスト”のことを指す場合が一般的なようです。
Flashゲーム黎明期のガラケー時代はカードイラストがもてはやされ、イラストレーター(絵師)の仕事がフィーチャーされました。
最近は端末のスペックが格段に良くなったので3Dゲームも当たり前になり、SG開発会社には3Dアーティストもたくさんいます。
ゲーム会社でのデザイン組織(会社の組織構成にもよりますが)の中にはイラストレーターや3Dアーティストなど、いわゆる”絵作りの”専門家”が多く、世間一般の感覚でいうと彼らはアーティストであってデザイナーとは呼びません。
非デザイナーの人たちからするとどちらも見た目を担保する仕事だから同一視してしまうのでしょうが、大前提として
”アーティストはデザインができません”
”デザイナーは絵が描けません”
アーティストにデザインは出来ない
アーティストの専門領域はあくまでイラストや3Dなどグラフィック【絵作り】です。
つまりは芸術家です。
一方デザイナーは設計者です(直訳ですが…)
見た目の美しさを担保するのは当然ですが、それ以上に制作物が正しく安全に使えるか、機能するかどうかを考えます。
そしてデザイナーは絵が描けません。
アーティストとデザイナーでは、そもそも専門性が違うわけです。
デザインの知識を持ち合わせていないアーティストに画面デザインを任せても、きれいな絵は作れるかもしれませんが設計ができない以上、まともに機能する画面にはならないかもしれません。
また、設計はどうやってそれを具現化するのか?(どうやって実装するのか?)ということも考えて作られるものなので、デザインができない人の作った画面では、そもそも実装することが不可能かもしれません。
アーティストにデザインさせてはいけない理由
- ①グラフィック(絵)とデザインの違いを理解できない
サイズ感やマージン、トーンバランスや視認性などデザインの基本的な理論を知らなければデザインはできません。見た目のクオリティだけにこだわってしまうと”どこが絵でどこがUIか”解らないものしか出来ません。 - ②企画意図、設計意図をくみ取ってレイアウトやデザインに反映することができない
ユーザーに体験させたいことや利便性を考慮して画面レイアウトは作られます。「なぜその場所、そのサイズ、その色でパーツが存在しているのか」設計者の意図をくみ取る理解力も必要です。UI設計の基本理念が理解できていないとまともに機能する画面は作れません。 - ③PX単位で細かくデザインパーツを作る必要がある
レイアウトはPX単位で細かく設計されています。数PXズレただけでもレイアウト全体に影響が出ます。
また、普段絵を描いているアーティストはパスでデータを作ったり、PX単位で細かく調整するような作業には疎いです。デザインパーツを制作する上でラスタライズされた画像は扱いにくく、修正も難しいです。 - ④実装方法を考慮しなければいけない
デザインを実装するにはパーツをどこで分割するか、どこをどうやってアニメさせるかを考えながら素材を制作します。
スマホゲームの場合は容量との戦いでもあるので、デザインしながらどこのパーツを使いまわしたり、組み合わせたりして、いかに容量を抑えながらリッチな画面に仕上げるかなど、サービス全体を俯瞰してUIデザインに落とし込みます。
実装方法にも精通していなければデザインのパーツ制作は難しいです。 - ⑤制作環境が違いすぎる
視認可能な文字サイズ、オブジェクトサイズ、タップ領域のサイズやカラーやトーンバランス
デバイスに応じた画角の知識や解像度などなどデザインには基礎知識が必要不可欠です。
普段印刷物を中心に扱うアーティストでは、制作するデータのサイズや使用するソフトウェアもデザイナーとは全然違うので、アーティストのデータはそのままでは使用できない場合が多いです。
(解像度350dpi・Clipstudio みたいな感じ)
デザインに不向きな制作環境では連携も取れません。 - ⑥UIデザイナーだけで全て完結する
世界観やクオリティをアーティストが担っていたとしても、アーティストの意向が理解できればUIデザイナーがそのままUIに再現できるので、最終的にアーティストの介入は不要になります。
デザインは”家を建てる”ことに似ていると感じることがよくあります。
デザイナーはいわば”建築技師”であり、建物の設計図を書くのが仕事です。
一方アーティストは設計をもとに家を建てる”大工さん”に当てはまるのではないでしょうか。
設計作業はクライアントの意向や予算、実際に家を建てる土地の大きさなどを考慮して図面を作成するでしょう。大工さんは現場で設計通りに建物を仕上げるのか仕事で、自分の勝手な意思で設計と違うことをしたりはしないハズです。(現場で都合の悪い部分は細かく修正するというのはあると思いますが)
アーティストとデザイナーでは専門領域が全く違います。
デザイナーとアーティストが一緒くたにされてしまうと何が起こるのか?
①世界観を作るのは誰の仕事か?
デザイナーの仕事は画面設計と同時に見た目のクオリティーを担保するのも役目なので、一部の仕事内容がアーティストと被ってきます。
ゲームの世界観やグラフィックのトンマナなど”コンセプト”を意識した画面作りをしなくてはいけないわけですが、このコンセプトを作るのはいったい誰なのか?という問題にぶち当たります。
キャラデザや舞台背景などがゲームの世界観を形作る部分が大きいので、アーティストの意向によってデザインコンセプトは決定されていくわけですが、
SGの場合は画面の大半を占めるのがUIだったりするので、UIのデザインがゲームの世界観を決定づける面が大きいのも事実です。
しかし、デザイン知識を持たないアーティストがデザインクオリティを担保するのはまず不可能です。
デザイナーはユーザーにとって優しい画面設計を優先しますが、アーティストは設計よりもアートとしての美麗さを優先してしまうため、デザイナーとアーティストは衝突します。
②設計作業がカオスになる
画面設計におけるUXはプランナーの方が精通しています。(デザイナーは基本、プランナーがやりたいと思うことを具現化するので)
アーティストの意向に沿ってデザインしてしまうと(見た目優先で突き進むと)、同じ表示物なのにシーンによってボタンの位置がずれていたり、使い方が変わったり、表示の仕方が変わったり。
普段隠れているものが出現した場合に他の表示物に干渉してしまったり。そもそもデバイス独自のガイドラインを理解していなかったりと、まともに機能しない画面が出来上がってしまう危険性が非常に高いです。
29.5話「デザイナー≠アーティスト」より またサービスの意向を無視して見た目を優先してしまうので、プランナーと意思疎通ができていなければ、プランナーチェックで弾かれます。
アーティストが勝手にいじくりまわした結果、勝手に事故って、いたるところで炎上しまくるので、デザイナーにとっては彼らの尻拭いに駆けずりまわされる羽目に陥るだけで非常に迷惑です。
UIにおけるアーティストの役割は、あくまでUIデザインがサービスのクオリティに達しているか否かの判断だけであって、UXにまで言及すべきではありません。(使いやすい、使いにくいみたいな話はいらない)
意見はあっていいですが、実際に作業として手を下すのはUIUXデザイナー(もしくはプランナー)と、領域を明確に区別するのが妥当です。
デザインク(設計)オリティを担保するのはデザイナー
アートのクオリティを担保するのはアーティスト
という明確な棲み分けが必要です。
両方をいっぺんに面倒見るならデザインもアートも両方のクオリティを見極められる能力が要求されます。
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