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少年犯罪小説の神作「空白の叫び」

2006年 小学館刊行 貫井徳郎著

貫井徳郎作品は文体が非常に綺麗でテンポが良く、作品を読ませる強力な魔力があります。
読んでいる最中の生き詰まる展開と読了後の開放感の落差がとても心地いいのですが、
作品のテーマが毎回重いのでスッキリというよりも考えさせられるという読後の妙な虚脱感があります。

そんな重苦しい貫井作品に魅力を感じ、貫井徳郎という偉大な作家を知るきっかけになったのがこの「空白の叫び」という小説でした。

あらすじ

退屈な日常の中で飼いならしえぬ瘴気を溜め続ける久藤。
恵まれた頭脳と容姿を持ちながら、生きる現実感が乏しい葛城。
複雑な家庭環境ゆえ、孤独な日々を送る神原。
世間への違和感を抱えながら殺人者となった三人の少年たち。
後悔はしていない。罪を償ったとも思っていない
少年犯罪をテーマに中学生たちの心の軌跡を描き切った衝撃のミステリー長編。

少年犯罪をテーマにした作品は不思議な魅力があります。
犯罪に走る子たちはみんな寂しかったりイジメられていたり心に深い傷を負っていて、はじめからサイコパスだったわけではなく、自分なりの正義を信じるが故に過ちを犯してしまう。

大人になり切れない多感な少年少女たちが精いっぱい背伸びをして、それが時に間違った方向へ道を踏み外してしまう。
自分を何か特別な存在のように感じて感情的に、衝動的に普段では絶対にしないような行動をとってしまう。

そんな経験はきっと誰にでもあるはずで、ティーンエイジャー特有の不安定さに、過去の自分を重ね合わせてみたり、主人公たちとの共通点を見出しては一喜一憂してみたり、少年犯罪をテーマにした作品は、一般的な犯罪ミステリーやサスペンス作品よりも胸に迫るものが多くあると感じます。

この作品に登場する主人公の3人もはじめは各々の理由があって殺人を犯してしまいますが、少年院での悲惨な嫌がらせや出所後に待ち受ける厳しい現実を前に、人として立ち直ることが出来ずに再び罪の道へ落ちていきます。
犯人と刑事のはなしを同時に進める群像劇タイプの小説が貫井作品では比較的多いのですが、育ちも経歴もバラバラだった3人の少年が犯罪者への道を歩んでいく心理変化の描写や、最終的に一つの道でつながっていく構成の巧みさが他の作品に比べて群を抜いて秀逸な傑作だと思います。

文庫版は上中下の3巻の大作です。
本を読むのが遅いタイプなのですが、読み始めたとたんに夢中になって、一気読みしてしまった作品です。
秋の夜長に、じっくり考えさせられるそんな作品が読みたいと思ったら「空白の叫び」をお勧めします。

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