
読書感想文
反戦の象徴「暗幕のゲルニカ」
2018年 新潮社刊行 原田マハ著
20世紀を代表する絵画の巨匠”パブロピカソ”
スペイン内戦の悲劇を経験し、彼が反戦の思い込めて描いた傑作”ゲルニカ”は、現在スペインのソフィア王妃芸術センターに所蔵されています。
そしてピカソ自身が監修し制作されたタペストリーが世界に3点だけ存在します。
そのうちの一つ、ニューヨークの国連本部ロビーに設置されたタペストリーが2003年2月青い幕で覆われ隠されるという事件が発生します。
実際に起こった事件を下敷きに、戦争という残酷で愚かな行為を痛烈に批判したゲルニカに込められたピカソの平和への願いが、長い時を経て現代が抱える不安定な社会情勢に一石を投じる、原田マハが描きだす反戦へのメッセージです。
ちなみに、3枚のタペストリーうちの一つはなぜか日本の群馬県立館林美術館に所蔵されています。経緯は不明・・・
あらすじ
2003年2月 9.11の悲劇からイラクへの武力攻撃を開始しようとしていたアメリカは、その日国連本部の会見場でイラク攻撃を宣言する。
しかし国務長官の背後にあるはずの、反戦のシンボルにして20世紀を代表する絵画 ピカソの〈ゲルニカ〉が何故か暗幕によって覆い隠されてしまっていた。
一体誰が〈ゲルニカ〉を隠したのか?
MoMAのキュレーター八神瑤子はピカソの名画を巡る陰謀に巻き込まれていく。
故国スペイン内戦下に創造した衝撃作にピカソは何を託したのか。その制作過程を写真に収め続けたピカソの恋人で写真家のドラ・マールが生きた過去と瑤子が生きる現代とが交錯し、次第に一つの真実に帰結していく。
相変わら絵画に関しての造詣が深い原田マハ作品。
作者の原田マハさん自身がずっとピカソを題材にした作品を書きたいと思っていたそうなので、その思いが存分に込められているのが作品から伝わってきます。
ルソーをモデルにした名著「楽園のカンヴァス」も素晴らしい作品でしたが、こちらも事実を巧みに織り交ぜ、本当に好きでなければこんな壮大な物語は書けないんじゃないかと感じさせられる傑作です。
楽園のカンヴァスにも重要な役どころで登場したピカソ。
どんな人物だったのか、いろんな資料が残されているので何となくは知っているけど、原田マハが描き出すピカソはそんなピカソのイメージにぴったりな繊細かつ豪快な人物です。
前作の主人公の一人”ティム・ブラウン”も今回の主人公”瑤子”の上司として登場します。

公式サイト o-museum.or.jp
ゲルニカは有名な作品なのでもちろん知っていたし、印刷物や模造作品を目にしたことは何度もありますが、どういった経緯で書かれた作品なのかまでは知りませんでした。
そして国連本部で起こった事件に関しても何も知りませんでしたが、絵画に込められた意味を知ると、世界が大騒ぎするのも頷ける。
絵画を見るのは好きでなんすが、正直、印象派とか抽象派とか、何かいてるのかよくわからない作品は僕には難解すぎてイマイチ好きになれません。
ピカソの作品においてもそんな感じですが、その中に秘められた作者の思いを知るとまた違った見方が自分の中に生まれるというのが、絵画の持つ不思議な魅力でもあります。
絵画の持つ力というのは、いつの時代も凄まじいですね。
僕もそんな作品を一つでいいから残してから死にたいな。
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