
読書感想文
幸せな人生を求める殺人鬼の一生「殺人鬼フジコの衝動」
2008年 徳間書店刊行 真梨幸子著
記録小説という切り口で書かれた作品なので、本当にフジコという殺人鬼がいたのではないかと思わせる内容です。
実話なのか虚構なのか?そんな絶妙な世界観で、フジコという狂気を宿した人物が次にいったい何をするのか終始気になって仕方ない、常にハラハラさせられる作品です。
あらすじ
十数人を殺害した罪で死刑になった伝説の女、通称“殺人鬼フジコ”。
彼女は11歳のときに起こった一家惨殺事件のただ1人の生き残りだった。
悲劇を乗り越え新しい人生を歩み始めた少女だが、次第に殺人を繰り返す稀代の悪女へと変わっていく。
フジコはなぜ凶悪な殺人鬼になってしまったのか?
何をしてもうまくいかず、どんどん深みにはまっていく不幸な人生。
「残忍な母とは違う」「綺麗になりたい」「幸せになりたい」と願うあまり邪魔になる人間を片っ端から殺していくフジコ。
バレなければ悪いことじゃないと殺した人間をバラバラにしていく描写や、自分の子供にさえ虐待を繰り返す様など、読んでいると胸が締め付けられるような残酷なフジコの行動に気分が悪くなります。
生き残ったフジコの娘”早季子”の手記という形で語られる本作は、娘自身の体験と母親フジコの半生とが交錯し、後半はどちらの体験なのか解らなくなっていくのですが、著者の狂気が加速していき文章そのものが不可解な心の叫びに変化していくという、フィクションだとわかっていても読んでいて不気味に感じる演出が非常によくできています。
罪の意識など微塵も感じずに流れ作業のように人殺しを繰り返す。そんな凶悪な殺人鬼がどんな最期を迎えるのか気になって一気に読んでしまいました。
続編となる「インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実」と1作目と続編の間をつなぐ短編「私は、フジコ 殺人鬼フジコの衝動」が発表されています。
こちらもなかなか面白い作品です。
フジコを引き取った叔母の茂子の息子 健太 が事件を起こし逮捕されるが裁判によって無実となり、判決に納得できない報道陣はフジコを育てた叔母の茂子にインタビューを求めます。しかし・・・
家族を亡くしたフジコを引き取り育てた叔母の茂子とはいったいどんな人物だったのか?
なぜフジコが凶悪な殺人鬼に成長してしまったのか?
前作の著者 早季子の身に何が起こったのか?
1作目では触れられていなかった謎やフジコを殺人鬼へと変貌させた陰謀めいた真実が徐々に明らかになっていきます。
2013年には舞台で、
2015年にはhuluのオリジナルドラマとして”尾野真千子”さん主演でドラマ化もされています。Amazonでも有料で配信されています。
当たり前のように殺人を繰り返すフジコのブッ飛んだキャラクターを見事に演じ切る、本当に凄い女優さんです。
時系列でフジコの生涯を追っていく小説とは違い、ドラマ版はフジコの次女 美也子が死刑執行前の母親のフジコにインタビューする形で物語が進行します。
小説とはちょっと違う切り口と結末で描かれていますが、これはインタビュー・イン・セルの内容を予感させる構成になっているのかなと感じます。
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